注)本記事で取り扱う歌詞は、2010年のイギリス映画に出てくる、「ヘールシャム学校の校歌」の歌詞です。国内の同名ドラマの主題歌ではありませんので、ご注意ください。

 こちらのほう。

注)本記事には、映画の内容に関する重大なネタバレが含まれます。いつものことですけど。映画を見る予定のある人は「続きを読む」をクリックしないでください。


この映画は、クローン人間達の物語。現実世界ではまだ牛ぐらいしか誕生していませんが、映画の世界ではもう何千人ものクローン人間が誕生しています。簡単に彼らの標準的な経歴を書くと、このようになります。

  • 誕生〜?歳:たぶんどこかの研究室みたいなところ
  • ?歳〜18歳:ヘールシャム(Hailsham)学校、もしくはそれに類するクローン学校。家はないので、寄宿
  • 18歳〜:コテージ(集落?)で、他のクローン人間と一緒に過ごす。職にはつかない。日帰り旅行に行ったり、ぶらぶらしてる。「介護人(carer)」という職にだけはつけ、それになると車の免許がとれる
  • 20代後半のどこか:臓器提供の指令通知を受ける。「介護人」はしばらく通知を受けるのが猶予され、その間、車であちこちの病院や施設を回って、通知を受けた人(提供者: donor)の世話をする。臓器提供は死ぬまで行われる。運が悪ければ1回目の提供で死ぬ。たいてい3〜4回。4回目の提供以降も生きていると、介護人はつかず、体のケアもしてくれないらしい。それでも死ぬまで提供し続けなければならない。

映画では、彼らが通うヘールシャム学校の校歌が2回、冒頭に子供たちが歌うシーンと、本編終了後のトレイラーで流れます(トレイラーは、最初別の曲が流れていて、最後の最後にこの曲になります)。そして不思議なことに、2回目に聞いたときに背筋が凍ってしまうのです。冒頭と同じ内容、同じ歌声のはずなのに。

以下、原文。

When we are scattered afar and asunder
Parted are those who are singing today
When we look back and forgetfully wonder
What we were like in our learning and play
Oh, the great days will bring distance enchanted
Days of fresh air in the rain and the sun
How we rejoiced as we struggled and panted
Echoes of dreamland, Hailsham lives on

次に、冒頭シーンで字幕に出ていた内容。

いつの日かはるか遠く離ればなれになって
今日ここに集う者はそれぞれの道を行く
過ぎた昔を振り返りつれづれに思うだろう
よく学びよく遊んだ懐かしき幼き日々を
過ぎた過去の思い出は時と共に輝きを増す
芳しい大気 降り注ぐ雨 きらめく太陽
弾む息、喜びに満ちあふれていた日々
懐かしき我らが母校ヘールシャムよ、永遠なれ

次に、冒頭シーンの私訳(公式訳よりも原文に近づけています)。こちらは、子供たちが学校の校歌として歌っているシーンにふさわしい訳をつけています。

私たちが離ればなれになると
今日歌っているみんなはそれぞれの道を行くことになる
その際、おもむろに過去を振り返るだろう
よく学びよく遊んだ頃の思い出を
過ぎた過去の思い出は時と共に輝きを増す
芳しい大気 降り注ぐ雨 きらめく太陽
私たちの喜び、もがき、あえぎが
こだまするドリームランド、ヘールシャムよ永遠なれ

そして、全ての物語が終わった後でこの歌詞を聞くと…

体が切り刻まれ、各パーツが散り散りばらばらになると
今日歌っているみんなは故人(※)となる
その際、(手術台の上で麻酔をかけられて)朦朧とした状態で過去を振り返るだろう
学習しているときや、遊んでいるときに、私たちがどのような状態だったかを
これまでこうやって過ごしてきたことで、遠い場所(=臓器提供先)で良い結果がもたらされることになる
(研究所のような環境ではなく)芳しい大気 降り注ぐ雨 きらめく太陽で過ごした日々(が、良い結果をもたらす)
私たちがどのように喜び、もがき、あえいでいたかを
世の中に伝えるドリームランド、ヘールシャムをどうか潰さないでくれ

のように聞こえます。

※”Parted”には、「離ればなれ」という意味の他に、「既に亡くなっている」という意味があります。

この物語には、クローン人間にも感情があるのだから、同じように学校に行かせるべきという勢力と、クローン人間は所詮ただの生き物でしかないのだから、家畜と同じように育てるべきという勢力が対立していて、最終的に後者が勝利し、学校が潰される、というストーリーが背景にあります。この歌詞自体を、前者の勢力の主張と捉えると、この歌のカラクリをすっきりと解釈できます。

ただ、両勢力とも臓器提供自体には反対しておらず、前者であってもクローン人間を所詮生き物(creature)とみなしています。彼らのおかげで自分たちの平均寿命が長くなるんだから、クローン制度がなくなるなんてありえない、と。このため、子供たちは緑で書いた意味をこめて歌う一方、教師など周りの大人は、食用になる家畜を見るような感じで、かわいそうな生き物だなと思いながら、赤で書いた意味で子供たちと一緒に歌っているのです。それが、淡々とした恐怖を味わわせてくれます。

中盤はちょっと退屈でしたが、興味のある方はぜひ観てみてください。(って全ネタバレした今になって言うなという突っ込みがありそうですが)

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映画「わたしを離さないで(Never Let Me Go)」の劇中校歌の恐ろしい歌詞” への1件のフィードバック

  1. 最近小説を読み終えたばかりです。
    校歌の歌詞は小説には出てこないみたいですので、怖いですね・・
    映画を見てみたくなりました。ありがとうございます。

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